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Special

オフィシャルインタビュー第2弾
丸戸史明(シリーズ構成・脚本)×柏田真一郎(A-1 Pictures)

――本日は「Engage Kiss」の企画の成り立ちを中心にお話をうかがえればと思っています。よろしくお願いします。

丸戸史明(以下、丸戸) はい。……といいつつ、なんでここに柏田さんがいるのかって、読者のみなさんは不思議に思うんじゃないですか? 普通はこういう取材に登場するのって、製作会社であるアニプレックスのプロデューサーですよね。A-1 Picturesの人が出てくるにしても、アニメーションプロデューサーのことが多いはず。なのに社長がみずから出てくる。まずそこをご説明しとかないとな、と。

柏田真一郎(以下、柏田) 不思議ですよねえ(笑)。今作において私は、「企画発起人」みたいな、ちょっと不思議な立ち位置なんですよね。プロデューサーでもなんでもない。とはいえ、企画の発端から現在までを知っているメンバーのひとりなので、こうした場には私が出てくることになるんです。

――公式サイトの丸戸先生のコメントに「以前一緒にお仕事をさせていただいたプロデューサーさんに声を掛けていただきました。僕が必ず脚本会議の前日までに成果物を納品していたことを評価していただけたようです」とありましたが、この「プロデューサーさん」というのが柏田さんという理解で大丈夫ですか?

柏田 そういうことですね。

――丸戸さんにご依頼された理由も……?

柏田 そんなわけないじゃないですか!!(笑)

丸戸 あれは「冴えない彼女の育てかた(以下、「冴えカノ」)♭」の作業が終わり、原作小説の最終巻も脱稿したタイミングでしたね。

柏田 ですね。丸戸さんが「冴えカノ」を無事に終わらせたタイミングで、またぜひお仕事をご一緒したいと感じていたので、次の企画を何かをやりませんか? とお声がけしたのが始まりです。
で、そのあと「冴えカノ」劇場版の作業を終えてから、本格的にこの企画の準備に入ったという流れです。

――最初から今の「Engage Kiss」に近い形の企画だったんですか?

丸戸 最初はもっと現実感の強いというか、もっとスケールの小さな企画をいくつか出していたんですよ。ドラマの「お金がない!」みたいな雰囲気のホームコメディ、金持ちの復讐劇、お金が尽きたスパイ組織の話、執事がお金を稼ぐためにがんばる話、「機動警察パトレイバー」みたいな雰囲気のお仕事もの……でも、こうやって出したアイデアのどれも、柏田さんが「よくわかんないんだけど、ピンとこないんだよね」と返してきて。

柏田 ははは、やだなあ。まるで僕がひどい人みたいじゃないですか。

丸戸 そんなことは言ってないですよ(棒読み)。で、最終的に、「悪魔」と「記憶」がキーワードになった企画を出したら、それで大まかな方向性は決まった。でも柏田さんに「まだ何かが足りない」といわれたんです。で、「登場キャラクターは全員ダメ人間」という要素を加えたところで、ようやくOKが出て、シナリオの作業に進むことになりました。

――「ダメ」の要素は後からだったんですね。

丸戸 企画の中で、アニメを見ていて楽しくなれる部分を考えていく中で出てきた要素でした。こちらとしては苦肉の策で出したアイデアで、心も折れそうになった頃、ようやくお許しをいただけた気持ちでした。当時の心境は、まるで苦行に挑む修行僧……。

柏田 だから、さっきから僕がずいぶんひどい人みたいじゃないですか!(笑)とはいえ、たしかにずっと何か引っかかっていたものが、「ダメ」という要素が出てきたときに、スッと落ちた感じがしたのはたしかです。そもそもそれ以前から、丸戸さんとこの企画に出てくるキャラクターの話をしていると、全員何かしら「ダメ」なところがあったんですよ。それだったらいっそ、主人公のシュウも含めて、全員「ダメ」ということで企画の方向性を固めたらいいんじゃない? と提案しました。もちろん、ただ「ダメ」なだけじゃなくて、みんないいところはあるんですけど、基本的な部分がダメ人間。丸戸さんの書くそれは面白そうだなと思ったんです。

――丸戸さんの作品には、「冴えカノ」もそうですけど、ちょっとそういう匂いはこれまでもありましたよね。「外面は優秀だけど実はダメ」みたいなキャラが多く登場する。

丸戸 というか、僕が完全無欠の「お兄様」みたいなキャラを書けたことがありますか!? っていう感じですね。

柏田 だからさあ、書けない発言ばっかりしないでください! 波風が立っちゃうでしょ!

丸戸 え〜。これくらいは大丈夫じゃない?

――さすがです……。つなこ先生にキャラクター原案をお願いするのは、どのような流れで決まったのでしょう?

丸戸 柏田さんが前々から「つなこさんと仕事がしてみたい」と言っていたんですよね。「デート・ア・ライブ」などでのお仕事を見ていて。

柏田 そうですね。色気もあるし、かわいいし、いうことなしの絵だなと。しかも実際に仕事をさせていただいて驚いたんですが、手が速い!

丸戸 速いし、いろいろなところに気を回しながらデザインしてくれるんですよね。さらに多様な視点に配慮しながら、シナリオにも意見を出して、作品のバランスをとってくれた。

――キャラクター原案の方がシナリオ会議(ホン読み)にも参加されていたんですか。

丸戸 そうなんです。つなこさんからのご希望で、参加してくれていました。シュウのクズっぷりの繊細なニュアンスの部分は、つなこさんにチューニングしていただいた部分がありました。嫌われないクズってすごく難しいし、実際そうできているかどうかは視聴者のみなさんのご判断を仰いでとなんともいえないんですけれども、「そのシュウの言い方はよくない」とか、「そういうときにシュウがそんな態度をとるのは良くない」とか、そういう意見はとても参考になりました。

柏田 お色気要素の部分も、つなこさんにご意見をいただいていましたね。男女問わず視聴者の方が嫌味なく楽しめる範囲を、上手く見極めていただけたように感じています。

――ホン読みにはおふたりとつなこ先生以外、どなたが参加されていたんですか?

丸戸 原作協力としてクレジットされている株式会社オルクスの萩原猛さん、田中智也監督、それからA-1のアニメーションプロデューサーの藤田祥雄さん、世界観設定の矢野俊策さん、そしてアニプレックスのプロデューサー、我らが奈良駿介ですね。

柏田 あとはProject Engageとして一緒に動く、ゲームの「Engage Kill」の開発チームもですね。

丸戸 かなり大所帯で、初期を除いてリモート中心でやっていました。

――ホン読みの作業は順調に進まれたのでしょうか?

柏田 とても順調でした。さすが丸戸さんですよね。

丸戸 ……えっ?

柏田 …………えっ? 順調だったじゃない?

丸戸 たしかにある程度までは順調に進めさせてもらえるんですけど、一旦最終話まで書いて、全話のホン読みまで終わったあとで、「最後まで書いてもらってなんだけど、7・8話のあたりはもうちょっと見直したい」と柏田さんが言い出して。じゃあ、そこから後半の話数だけ見直しますか? と返したら、「いや、最初からやり直そう」と。その結果、2話は初期稿から内容が全とっかえになりましたね。

――つまりシリーズ構成でガチガチに内容を固めてから進めるのではなく、一旦シナリオの形で全話書き上げて、ホン読みを経てから、あらためてシナリオ全体の方向性を見直す、労力のかかるやり方をとられていたんですね。今作への力の入り方がうかがえます。

丸戸 ……いや、僕の認識としては、シリーズ構成できっちり内容を固めたはずだったんですよ!!!!!

柏田 あはははははははは。でも、ちゃんと変えた理由はお話しましたし、丸戸さんもわかってくれたじゃないですか。

丸戸 それはそうですけど……。

――直す前と後でどんな違いがあったのでしょう?

丸戸 アフレコが始まる前に、キャストのみなさんに「この作品は30年前の『週○少○サ○デー』のノリを目指しています」と伝えたんですけど、その流れでたとえるなら、僕は当初、『G○美○ 極○大○戦!!』の序盤から中盤ぐらいまでのイメージで作ってたんです。ちょっとシリアスな要素もあるけど、基本は明るいコメディだよ、と。そうしたら柏田さんが「○シュ○ロス編の空気感を入れよう」と言い出したんです。

――連載後期の、シリアスな長編エピソードをやろうと。

丸戸 というか、主人公をもっと深堀りして、シリアスみを増そう、ということですね。だからもともと書いていた要素を活かしてはいるんですけど、そういう要素の部分を補強していったのが、2周目のホン読みだったかなと思います。

柏田 もともとはもっとキサラ・アヤノ推し、ヒロイン推しの作品だったわけです。でもやっぱり、主人公がそこにいる意味をもたせたいなと。ダメ人間だけど、ちゃんとカッコよくあってほしいと感じたんです。

丸戸 そうですね。シュウにスポットをあてるような形で、お話の舵を切った。大まかなストーリーの流れは変えませんでしたが、見せ方がもっと当初は群像劇っぽかったんです。

柏田 でもこの作品に限らず、自分がアニメでオリジナル作品をやるときには、一度頭にまで戻って会議をやり直すことにしてるんですよ。いってしまえば、「それがお前の全力か?」みたいな感覚です。実際、いわれたとき、もっとやれると思っていたんじゃないですか?

丸戸 は、ははは……。でも、他の現場で噂を聞くと、オリジナル作品のホン読みが2周で終わるのはまだマシな方らしいです。

柏田 たしかに。長年寝かされたヴィンテージものの企画、ありますからね。

――さきほどつなこ先生からはご意見があったとありましたが、ホン読みに参加されていた他の方のご意見で作品に反映されたのは、たとえばどんなところでしょうか。

柏田 田中監督の意見はほぼ反映されているように思います。演出する上でのアイデアを考える立場ですから。

丸戸 監督は特にアクションの見せ方にこだわっておられましたね。フェティッシュの見せ方に関しては見解の相違がありました(笑)。「タイツをどこまで描写するか」とか。あ、でも監督が僕より淡白とかそういう話ではまったくなく、1話のキスシーンは僕が想像していた以上に濃厚でした(笑)。ここまでやるんだぁ〜と。あそこは監督のこだわりです。

柏田 あの一連の戦闘シーンはいいですよね。アヤノとキサラのキャットファイトも、単純に相手が嫌いだったらね、足を引っ張って襲ってきている魔犬にかませればいいんですよ(笑)。でもあくまで敵を倒しはしている。個人的にやっぱり丸戸さんのシナリオといえば、女同士の友情描写で、「冴えカノ」のときからずっと好きなんです。

丸戸 あそこも監督のこだわりを感じますね。

柏田 ちなみに1話の制作には1年かかっちゃってます。

丸戸 ほぼ劇場版並のコストですよね。

柏田 まったくで……。

――放送はここから続々と進行していきます。楽しみですね。

柏田 丸戸ファンには絶対、100%刺さる内容になっていますし、つなこさんのファンにも刺さると思います。A−1のファンももしいたら、刺さると思います。柏田ファンも、この広い世界には10人くらいはいるんじゃないかと思いますが、刺さると思います。明るいだけのお話じゃないですけど、きっと楽しんでもらえると思いますので、よろしくお願いします。

丸戸 ぶっちゃけ僕個人のファンというのは、数としてはアニメ一作を支えるほどではないと思うんです。その層だけを狙うなら、「冴えカノ」みたいな作品をまた作ればよかった。でもそうじゃないものを作ったということは、もっとマスに、広いみなさんに刺さるようなものを目指したわけですよ。
そして、ラブコメの部分は僕のこれまでのファンの方にも楽しんでいただけるものを目指しましたし、1話をご覧いただけた方にはわかるように、アクションシーンは僕の想定をはるかに上回るスゴいものになっていました。

――丸戸先生の作品ならではの魅力と、新しいおもしろさが詰まっている感じですよね。

丸戸 そこに「クズを演じる斉藤壮馬さん」という、役者としての新しいイメージを提示できた気がしていますし、会沢紗弥さんのヤンデレとしての「本物」感漂う演技もある。Lynnさんの共依存臭がする演技も最高です。僕の仕事がどうこうより、そういうところを楽しんでいただければ幸いです。……なんか宣伝というより、最後の最後まで、いつも飲み屋で柏田さんとしているような会話ばっかりしちゃった気がするなあ(笑)。